病気を治す医療から、「病気にならない社会」をつくる医療へ
- Ichiro Sugimoto
- 7月26日
- 読了時間: 6分
私は脳神経外科医として、長年、多くの患者さんの診療に携わってきました。
脳卒中をはじめとする脳の病気は、ある日突然発症し、それまでの日常生活を大きく変えてしまうことがあります。
「昨日までは元気だったのに」
そう話される患者さんやご家族を、私は何度も目の前にしてきました。
病気を早く見つけ、適切に治療することは、医療の大切な役割です。しかし、診療を続ける中で、私は次第に強く考えるようになりました。
病気になってから治療するだけではなく、病気になる前の段階で、もっとできることがあるのではないか。
健康な人が健康なまま暮らし続けられるように支えることも、これからの医療が担うべき大切な役割ではないかと思うのです。
「異常がない」ことと「健康である」ことは同じではない
健康診断や医療機関で「異常はありません」と言われると、多くの方は安心します。
もちろん、それは大切な結果です。しかし、検査数値が基準範囲内であることと、その人が心身ともに健康であることは、必ずしも同じではありません。
疲れやすい、よく眠れない、頭が重い、気分がすぐれない、お腹の調子が安定しない――。
検査にはまだ現れなくても、身体はさまざまな形で小さな変化を知らせていることがあります。
そのサインを見過ごさず、食事、睡眠、運動、ストレス、生活環境などを振り返ることが、本格的な病気を防ぐ第一歩になります。
医療は、病気になってから初めて利用するものではありません。
今は元気に暮らしている人が、自分の身体の状態を知り、その健康をできるだけ長く保つためにも、医療の知識や適切な検査を活用してよいのです。
健康は、診察室の中だけではつくれない
医師が患者さんを診察できる時間は、その方の生活全体から見れば、ほんのわずかなものです。
実際の健康を支えているのは、毎日の食事や睡眠、身体の動かし方、心の状態、生活する環境、そして人とのつながりです。
さらに、その食べ物を育てる土や水、そこに生きる微生物、自然環境も、私たちの健康と無関係ではありません。
健やかな土が農作物を育て、その農作物が私たちの食となり、腸内環境や身体をつくります。そして私たちの暮らし方が、再び地域や自然環境に影響を与えていきます。
医療、食、農業、発酵、微生物、自然、心、地域社会。
これらを別々のものとして捉えるのではなく、一つの大きな循環として考えることが、これからの健康づくりには必要だと感じています。
人の健康と、環境の健康をつなぐ微生物
私が注目しているものの一つが、微生物の働きです。
私たちの身体には、腸内細菌をはじめとする多くの微生物が存在しています。土や水、植物、発酵食品、そして私たちが暮らす環境にも、無数の微生物が生きています。
微生物というと、感染症や病気の原因になるものを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、微生物の中には、発酵や食物の生育、自然界の循環などに関わり、私たちの暮らしを支えているものも数多く存在します。
人の健康と環境の健康は、決して切り離されたものではありません。
土の状態が変われば、そこで育つ食べ物も変わります。食べ物が変われば、私たちの身体や腸内環境にも影響します。
目に見えない微生物の世界を知ることは、人間の身体だけを見る医療から、私たちを取り巻く環境まで含めて健康を考える医療へと、視野を広げるきっかけになると考えています。
なぜ、EMに取り組むのか
横浜EMウェルネスでは、EM(有用微生物群)を活用した農業や環境活動、発酵、食についても学び、実践していきます。
EMとは、人や環境にとって有用と考えられる微生物の働きを、農業や環境浄化、発酵などに生かそうとする考え方と技術です。
私は、EMを医療や治療の代わりに用いるものとは考えていません。
必要な検査や治療を適切に受けることは、これまでと変わらず大切です。その一方で、病気になる前の健康づくりを考えるとき、身体だけでなく、食べ物を育てる土、腸内環境、暮らし、そして自然環境まで見つめる必要があります。
EMについて学ぶことは、そのつながりを考える一つの入り口になります。
実際に私たちは、EMを活用した土づくりや農作業、発酵食品づくり、環境活動などに取り組んでいます。机の上で知識を得るだけではなく、土に触れ、作物を育て、食べ、皆でその経験を共有することを大切にしています。
医療の専門家だけで健康をつくるのではなく、農業や食、発酵、環境に携わる方々とも力を合わせながら、健康を支える土台そのものを地域の中に育てていきたいと思っています。
薬や検査を否定するのではなく、上手に活用する
「病気にならない社会をつくる」と言うと、薬や検査、現代医療を否定しているように受け取られることがあるかもしれません。
しかし、そうではありません。
必要な薬を使い、適切な時期に検査を受け、病気が見つかった場合には早期に治療することが大切です。
特に脳卒中や脳腫瘍などの脳の病気は、自覚症状が出たときには、すでに進行していることがあります。だからこそ、病気を必要以上に恐れるのではなく、自分の身体の状態を知り、必要な検査を予防のために役立てることが重要です。
そのうえで、医師や薬にすべてを任せるのではなく、自分自身の身体に関心を持ち、日々の暮らしを整えていく。
医療と生活習慣、予防と治療のどちらか一方を選ぶのではなく、それぞれを適切に組み合わせることが、これからの健康づくりには必要です。
病気にならない社会を、地域から
私が目指しているのは、単に病気を治療するだけの医療ではありません。
健康な人が健康なまま暮らし、不調が生じたときには早い段階で気づき、必要な医療や支援につながることのできる地域社会です。
子どもから高齢者まで、医療、健康、食、農業、発酵、微生物、自然環境について一緒に学び、実際の暮らしの中で実践する。
農作業や食づくりを通して身体を動かし、世代や立場を越えて人と人とがつながり、互いの健康を支え合う。
横浜EMウェルネスは、そのような場を地域の皆さんと一緒につくるための取り組みです。
「病気を治す医療から、病気にならない社会づくりへ」
これは、これまでの医療を否定する言葉ではありません。
病気を見つけ、治療する医療を大切にしながら、その手前にある予防と健康づくり、さらに健康を育む地域や自然環境にも目を向けていくという決意です。
これからこのブログでは、脳卒中や認知症の予防、脳MRI検査、食事、腸内環境、睡眠、心と身体の関係、EMや微生物、農業、発酵、自然環境などについて、医師としての経験を交えながら、できるだけ分かりやすくお伝えしていきます。
皆さんと一緒に、これからの医療と健康、そして未来の地域社会について考えていければと思います。
杉本一朗 日本脳神経外科学会認定専門医・日本抗加齢医学会認定専門医 医療法人照甦会 あかね台眼科脳神経外科クリニック




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