あかね台EMタイムス 第46号②|「菌を排除する医療」から「菌と共生する医療」へ
- Masaki Sugimoto
- 8月8日
- 読了時間: 3分
「あかね台EMタイムス」第46号②は、2025年12月1日に発行しました。
今回のテーマは、私たちの健康を支えている微生物と、消毒・除菌・抗菌に偏った現代の生活を見直すことです。
「菌はすべて悪者」という考え方
私たちは長い間、「清潔であるほど健康になる」「菌は悪者だから除去すべきだ」という価値観の中で暮らしてきました。
しかし、人間の皮膚、口腔、腸、呼吸器などには、それぞれ固有の常在菌叢、すなわちマイクロバイオームが存在しています。
これらの微生物は、外から侵入する病原体が増えるのを抑え、免疫や炎症反応のバランスを整えるなど、私たちの身体を守る働きに関わっています。
私たちは微生物を排除して生きているのではなく、膨大な微生物と共生することによって生命を維持しているのです。
消毒すればするほど健康になるのか
感染症対策や医療現場では、消毒が必要な場面があります。しかし、どのような場面でも強い消毒を繰り返せばよいというものではありません。
消毒薬は病原菌だけを選択して排除するわけではなく、皮膚を守る常在菌や組織へも影響を与える可能性があります。
傷の種類や感染の有無によって対応は異なりますが、現在の創傷管理では、必要以上に消毒を繰り返すのではなく、流水などで十分に洗浄し、傷が治りやすい環境を整える考え方が広がっています。
大切なのは消毒を全面的に否定することではなく、本当に必要な場面を見極め、適切に使うことです。
腸内フローラを治療へ生かす時代
微生物と共生する医療を象徴するものの一つが、糞便微生物移植(FMT)や腸内細菌を利用した製剤です。
健康な人に由来する腸内細菌を患者の腸へ届け、崩れてしまった腸内フローラの回復を図ります。
現時点で効果や適応が確立している中心的な対象は、抗菌薬による治療後も繰り返すクロストリディオイデス・ディフィシル感染症です。アレルギー、代謝疾患、精神・神経疾患などへの応用については、さまざまな研究が続けられています。
「便」が治療へ利用され、腸内細菌を生きた医薬品として扱う時代が始まったことは、微生物が健康に果たす役割の大きさを示しています。
日本人が受け継いできた発酵文化
日本には、味噌、醤油、酢、漬物、納豆、酒など、微生物の働きを生かした豊かな発酵文化があります。
乳酸菌、酵母、麹菌、納豆菌などと共に暮らし、その力によって食材を保存し、味や栄養を引き出してきました。
昔の人たちは、微生物の姿を見ることができなくても、その働きを生活の中で理解し、上手に共生していたのです。
昔の暮らしをすべてそのまま再現する必要はありません。しかし、微生物を一方的に敵と考えるのではなく、その力を借りながら健康を育ててきた知恵は、今こそ見直す価値があります。
微生物と共に健康を育てる
腸と脳は、神経、免疫、代謝などを通して密接につながっています。腸内環境の変化が、身体だけでなく気分や認知機能にも関係することが研究されています。
20世紀の医療は、除菌、滅菌、殺菌、抗菌によって感染症と闘い、大きな成果を上げてきました。その一方で、すべての菌を排除しようとすれば、私たちを守っている微生物まで失う可能性があります。
必要な感染対策は行いながら、微生物を敵として排除するだけではなく、共に生きる存在として捉え直す。
「菌と敵対する医学」から「菌と共生する医学」へ。これからの健康づくりに必要な視点をお伝えした第46号②です。
発行日:2025年12月1日発行:あかね台眼科脳神経外科クリニック


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